
ろくに抱きしめることもできぬまま、縋りつく愚かさだけを責め続けた。
「俺はお前の願いを叶えてはやれない。踏みにじることしか、できない」
吐き捨てた言葉が、先に空気を冷やす。
「師兄は、俺の何を知っているって言うんだ」
静かな問いが、胸の奥へ沈む。
――何も知らない。知ろうとすら、しなかった。
壊してしまうと決めつけ、触れぬことで守ったつもりでいた。
「お願いだから、俺も連れていって」
その結果がこれだというのに、弟弟子は、まだ諦めない。
「……馬鹿言うな」
いつか――狭く閉ざされた世界から彼が旅立つ日が来る。
そのとき自分は、微笑んで背を見送るのだろう。
祝福の言葉も、きっと口にする。
そうするしかないと、もう分かっている。
伸ばしかけた手は下ろされる。
握る資格もないまま。

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